ユビキタス社会を考える

 ユビキタス(ubiquitous)の語源はラテン語で「いたるところに存在する」という意味です。
ユビキタス社会とは、現状のIT社会がさらに成熟し、場所や時間に制限なく情報を自由自在にやりとりできる社会を意味し、理想的な近未来社会像として盛んに取り上げられているテーマです。
 この技術は、無線ネットワーク技術の進歩と、「ICタグ」と呼ばれる小型情報機器の技術進歩を融合させ、誰もが気軽に欲しい情報を入手、活用できる社会、則ち、これまで馴染みづらいとされてきた人間の日常生活と情報通信技術の隙間を埋めるべく発展させる技術概念と解釈できます。 

◆ユビキタス社会の実践事例

 日本は欧米と比較してこの技術に関してはやや後進のようです。
以下では先に欧米で実践している事例を紹介し、そのメリットとデメリットについて考えてみましょう。
(スーパーマーケットにおける事例)
 消費者は、スーパーマーケットで買い物をする場合、陳列された商品の中から自分の欲しいものを選び、買い物篭に入れ、レジに行って精算を済ませます。
 この一連の動作から、消費者はコストや見た目の鮮度、安全性等の基礎情報を表示情報のみを頼りに選択することになります。逆に供給者は、それらの情報を解りやすく提供する工夫が必要となり、かつ、供給量のバランスを的確に保つために、ニーズの重点がどこにあるのかをタイムリーにキャッチすることが求められます。
 これら双方向の情報交換をコンピュータによって合理的に処理している例を以下に紹介します。
構造のからくりは、商品ひとつひとつの包装にICタグ(Uチップ)を埋め込むことから始まります。そのICタグには商品の情報(値段、賞味期限、生産業者、化学物質含有量、安全検証記録等)が入力されており、消費者にU端末等でその情報を伝え(伝えるタイミングは様々)、さらに類似商品がどの場所にあるといった比較情報まで発信するように配慮されています。また、供給側はそれぞれの商品ひとつひとつがレジに通るまで、商品1つひとつに対する集中監視が可能であり、商品を手に取った瞬間からレジに通すまでの行動を把握することが可能となります。このことは商品の消化動向の把握はもちろんのこと、万引きなどの抑止効果も発揮しています。
 また、冷蔵庫などもユビキタス型に対応されれば、食材のUチップから得られる情報との連携により、現状の食材だけで考えられる何人分の夕食メニューの検索やそのレシピなどを提案してくれるシステムなども考えられています。その逆にU端末と冷蔵庫の連携により、買い物先のスーパーマーケットで、目的の料理を作るために足らない食材をチェックすることも可能になります。
 このようにユビキタス社会は、スーパーマーケットでの例ひとつをとっても、多用な効用があり、人間の暮らしを便利にしていくという観点で、今後も開発が続けられていきます。
 ただ、このように人間がすべき判断を機械に委ねてしまうことが多くなるにつれ、人間の判断力が次第に弱まっていくのではというデメリットも専門家の中で危惧されています。また、U端末から個人情報が流出しやすくなるというデメリットも併せて危惧されています。

◆我が国におけるユビキタス未来像

 前述のように、ユビキタス社会を現実のものにしていくためには、ある程度のリスクもあることを念頭に入れて考えるべきですが、人口ピラミッドが逆ピラミッド型となっている我が国の現状では、諸外国と比較しても、ユビキタスネットワークのテクノロジーに依存した社会が必至です。
 機械が間違いやすいような処理の判断を行えば、BSEなどの食品安全問題や医療現場での薬剤投薬ミスなど、様々な人的過誤に起因する社会問題が激減することは間違いありません。
 NRI(野村総合研究所)では、ユビキタスネットワーク新社会システムとして、@健康安心システム、A自動車ネットワークシステム、B教育学習システム、C社会資本モニタリングシステム、と4つのアプリケーション構想を打ち出しています。
 以下では、そのうちの1つである自動車ネットワークシステムについて近未来社会を考えてみましょう。
(ユビキタス自動車ネットワークシステムの未来像)
 我が国の道路交通事情は、現状国の施策であるTDM(Transportation Demand Management:交通需要マネジメント)の一環として、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)というシステム構想により、ソフト施策が進められています。
 ITSとは、最先端の情報通信技術を用いて、「人」、「道路」、「車両」を情報によって一体のシステムとして構築する社会システムであり、具体プログラムとしては、「ナビゲーションシステムの高度化」、「自動料金収受システム(ETC)」、「安全運転の支援」など、9つの開発分野から構成されています。現状では、道路交通情報通信システム(VICS)やノンストップ自動料金支払いシステム(ETC)など、一部のITSサービスがすでに運用開始されています。ユビキタス自動車ネットワークシステムとは、このITS概念の延長上にある具体構想であって、まったく別のものではありません。
                                         「関連サイト:ITS Japan
 まず、道路環境を健全に保つためには、これまで通り、道路の管理者が必ず必要になります。この管理者が官庁なのか、民間が好ましいのかは、また別次元の問題ですが、以下では敢えて「道路管理コントロールセンター」と称することにします。以下では、道路管理者と利用者の責任を2局化した案として構成例を紹介いたします。

ユビキタス自動車ネットワークシステムの構成例

(1)ユビキタス自動車ネットワークシステムの提供者
@道路管理コントロールセンター
 道路管理者は、各車両から発信される情報を収集・整理し、「ロードプライシング」を実施したり、利用状況を監視するための情報拠点(コントローセンター)を設置することが必要となります。
この場合、各自動車からの情報をモニタリングすることから、公的ライセンスを受けた民間主体による運営・管理形態を検討する必要があります。
道路管理コントロールセンターに課せられる役割は次の三つと考えます。
 ・道路交通状況をモニタリングし、事故などの緊急事態に対応
 ・道路交通の需要管理としてロードプライシングを実施(集中分散化)
 ・道路交通量等データを蓄積し、道路整備の事後的評価に活用
また、道路管理コントロールを主目的としつつ、それをドライバーが合意する場合には、ドライバー情報を他の民間事業者(例えば有料/無料コンテンツプロバイダー等)に販売・提供し、民間コンテンツプロバイダーが、ドライバーの属性や位置に応じて様々な情報サービスを提供できる環境が重要です。また、このドライバー情報から得られる販売収入を、道路の維持管理費に充てていくことが可能になると考えられます。
A民間コンテンツ/サービスプロバイダー
 民間コンテンツ/サービスプロバイダーは、道路管理コントロールセンターからドライバー情報を取得し、ドライバーの属性や走行場所、時間帯などに応じて、道路周辺の店舗などの広告を流したり、有料でニュースや音楽、その他のコンテンツ提供などの事業を展開します。また、民間共同での道路交通関連コンテンツ等提供のためにポータルサービスの提供も必要な行動となります。

(2)システム・機器の構成(ドライバー側の装備)

@U−UIM(ユビキタス個人認証モジュール)
 ユビキタス自動車ネットワークシステムは、ネットワークの外部性が考えられることから、ドライバー/車両への迅速な普及がきわめて重要な点となります。特に、ロードプライジングシステムの導入にあたっては、課金もれを逃さないように、一定期間後には「すべてのドライバー・車両」が捕捉・課金可能なシステムとして構成することが必要となります。 
 そのためにはも現在の運転免許証の情報をU−UIMに搭載することが有効かつ実現可能性が高いと考えられています。なお、U−UIMへの切り替えにあたっては、ドライバーへのコスト負担を極小化し、抵抗感を低くするなどの工夫が必要となってきます。
 運転免許証を活用することのメリットとしては、1つ理由として、事実上最も汎用性の高いIDとして広く普及しており、新しい個人IDをつけることに比較して抵抗感が少ないことであり、2つ目の理由として、5年に1度更新されることからルール化後、5年間ですべてのドライバーが保有することになること、3つ目の他の理由として、ユビキタス分野での個人認証のためのツールとしても活用可能となることもなどがあります。
これらをまとめると次のとおりです。
 ・U−UIMチップに免許証情報を搭載(免許証をすべてU−UIMに転換)
 ・顔写真はチップに貼り付けまたは指紋等個人認証情報を搭載
 ・個人は基本的に現在の運転免許証同様常時携帯を想定
 ・車両はU−UIMを読みこまないとエンジン駆動しない仕組み
 ・U−UIMは各種PDA等にも装着可能なモジュールとして標準化
A車両装備型デバイス(U端末と一体化)
 U−UIMへの切り替えと同時に必要となるのが、U−UIMと接続することにより駆動するデバイスを車両に装備することです。U端末と一体化した以下のような装備を善車両に装備しU−UIMを挿入することによって自動車が駆動するようなメカニズムが必要になります。
 ・情報取得・発信機能(車両から発信)−位置情報、運転情報(速度、道路異常、メカニカル状態)、ドライバー情報
 ・情報提供機能(ドライバーが受信)−道路状況、位置情報、メカニカル、プロバイダー提共情報等
 ・通信技術ーソフトウエア無線技術活用、第三世代形態電話技術を当面想定
 デバイスについては、ロードプライシングを実現するために最低限必要な機能を除けば、必ずしもメーカー間、モデル間で機能や形態が共通である必要はありません。基本的にはU−UIMへの接続性を確保したうえで、各社がエンドユーザーのニーズや提供される情報コンテンツサービスに応じた形で競争し、ドライバーが自動車を購入するときに併せて選択し、購入する形態が想定されます。

◆ユビキタス自動車ネットワークシステムが作る豊かな未来社会

 ユビキタス自動車ネットワークシステムは、一般ユーザーの利用意向によって普及の促進が図られ、交通渋滞等の解消などの明るい未来を展望することを可能にするためののです。
 よって、ユビキタス自動車ネットワークシステムの出現を、多くの国民が待ち望み、こうしたニーズに支えられ、各種のサービスが提供されることは、交通渋滞等の解消、道路整備問題等の構造改革への貢献、ドライバー情報提供など新しいサービスの創出、U端未保有の加速化など明るい未来を招くことになります。

(1)交通渋滞等の構造的な改革がなされる社会
 ユビキタス自動車ネットワークシステム導入は、自動車交通・環境問題、公共事業としての道路整備問題などの面で、わが国の構造改革に資すると考えられます。
 具体的には、走行中の車両をトラッキングすることによって、道路別の自動車交通量の正確な把握とロードライジング等の交通需要管理施策が可能となり、従来計測が困難であった交通社会資本整備に対する事後的評価(整備した道路がどの程度実際に利用されているか)が容易になります。 これらは、「ほとんど利用されない道路整備に税金が使われているのではないか」という公共事業に対する批判を検証するための貴重な情報公開データとなります。
 さらに、同じトラッキング技術を用いれば、各道路の渋滞状況等の情報をもとにも有料道路のみならず一般道路を料金徴収の範囲に含めたロードプライシングを実現することも倫理的には可能となります。
 また、各車両の走行状況のデータ(例えば、振動の状況など)や、道路そのものの物理的・化学的特性を測定するセンサーを整備することによって、道路の劣化状況の把握や修繕が必要な箇所の特定を行うことも可能となります。今後、これまで整備してきた道路の維持・メンテナンスのニーズが急速に拡大し、わが国公共事業費の中での比率を高めていくことが見込まれることから、このようなシステムの導入による道路・メンテナンスコストの低減は、非常に重要な論点となります。
 このようにも社会資本整備に対する正確な評価や、適切でタイムリーな維持管理を行うための基礎データの蓄積はも社会資本整備・維持管理の効率性と国民に対するアカウンタビリティを高め、社会の活力となることが期待されます。その結果、正しい道路整備の解釈とあり方を管理者及び国民双方向に共通認識するが可能となり、ひいては交通社会資本の維持整備費用を全体として削減することが可能となります。

(2)ドライバー情報提供など新しい産業創出
 有力な自動車メーカー各社は、自動車の情報装備化を進めており、ドライバーに対する新しいサービス提供の仕組み作りについても、激しく競争している状況にあります。またこのような情報化は、自動車メーカーのみならず、各種のコンテンツプロバイダーにとっても大きな事業機会となることが期待されます。
 ただし、ドライバーの視点からみると、各社がそれぞれ独自にサービスを提供している状況は望ましいことではなく、むしろ各メーカーがドライバーにとって使いやすいインターフェースなどの開発という側面で競争しつつ、技術的、ソフト的な共通プラットフォームが構築されることにより、一定規模の市場が確保されることで、事業参入の意欲が高まると考えられます。

(3) ユビキタス社会到来の加速化
 現在、成人の多くは自動車免許を有しており、自動車免許は手軽かつ汎用的な身分証明書として利用されている現状があります。
 このように、利用度が高い免許証を新しいユビキタス端末の中に挿入するU−UIMと呼ばれるICカードの中に記録することになると、免許更新の期間である3〜5年間で、国民の多くがU−UIMを手にすることになります。利用者の立場から考えても、既にIDとして利用している免許証の更新の手間だけが必要なことから、抵抗感がほとんどないのではないかと考えられます。個人情報流出等のリスク側面もありますが、免許証をユビキタス端末のID情報として取り組むことが可能となれば、U端末の普及を加速し、スピーディなユビキタスネットワーク社会システム構築が実現可能となります。 

「関連キーワード」
「ICタグ」

 ICタグ(無線ICタグ)とは、主に物体の識別に利用される目的の微小な無線ICチップのことです。このチップには自身の識別コードなどの情報が記録されており、電波を使って管理システムと情報を送受信する能力をもつ特徴を持っています。
 普及型の構造は対環境性に優れた数cm程度のもの(形状は用途に応じて自由)で、電波や電磁波で交信するものが最も多い、また近年ではアンテナを経由した非接触電力伝送技術により、電力(電池)を持たない半永久的利用可能なタグも登場しています。
「ロードプライシング」
 ロードプライシング(Road Pricing)とは、交通渋滞や大気汚染の著しい地域に進入しようとする自動車から課金する(料金徴収)ことで、交通集中の分散効果をねらうものであり、シンガポールなどですでに実施され、その効果(交通渋滞緩和効果)が確認されています。[交通渋滞は、温暖化や大気汚染の原因ともなっているため、環境改善策としての二次的効果も同時に期待できます]
東京都では、平成13年度からこのロードプライシングについて検討を進めており、渋滞緩和や大気汚染の改善を図るためのプログラムとして早期実現を目指しています。